2011年10月24日月曜日

大日本帝国憲法入門(5)天皇の立法権

 こんばんはo(`・ω´)o


 今日は天皇の統治に関する各行為のうち、第5条から第7条について、お話します。第5条以下には、天皇の統治に関する行為が列挙されています。これらは、第4条にある「統治権の総攬」を受けて、これを具体的に列挙したものです。




 

 (1)法律の淵源たる天皇


 

 第5条 天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ


 第6条 天皇ハ法律ヲ裁可シ其公布及執行ヲ命ス



 第5条は天皇の立法権を定めたものです。ただし、法案を審議し、法律として可決するのは第三章に規定されている帝国議会です。従って、立法権といっても、法案を起草したり、法律として可決するわけではありません。第6条にあるように、天皇の立法権についての行為は法律の裁可、公布、執行の命令ということになります。


 すなわち、これは第3条に現れている、「政務の合議制」の法によるものです。立法権は天皇に属するものの、法案の審議や可決は必ず合議制である議会において行われなければならず、これを経ていない法律は、「政務の合議制」の法に反し無効である、というわけです。「政務の合議制」が神話時代の高天原からの伝統であることもお話しました。


 では、実際に法案を審議し、可決する権限が帝国議会にあるならば、なぜ立法権は帝国議会にあるとしなかったのでしょうか? 法律の内容を決定する権限は、帝国議会にあるわけですから、立法権もあるとしても違和感はないのではないでしょうか?


 しかし、我が国においては法律とは書かれざる不文の「法」が文字として表現されたものです。法の淵源は国体です。よって、国体の中心である天皇こそが、全ての法律の淵源であるのです。


 確かに、その実質的な内容について決定するのは帝国議会です。ただし、法律が国家全体についての規範である以上、法律の淵源たる法の中心である天皇こそが、その立法権を有することになります。


 もちろん、「政務の合議制」や「天皇は統治すれども親裁せず」の法により、帝国議会が協賛した法案について、天皇が裁可を拒否したりすることは通常は認められないのです。


 法律は、法案を帝国議会が第5条によって協賛し、天皇が第5条の立法権に基づいて第6条の行為を行うことで国家に通用することになる、というわけです。


 よって、第5条及び第6条は、「政務の合議制」「天皇は親裁すれども統治せず」を帝国議会の協賛による天皇の立法権について成文化したものであるといえます。



 第7条 天皇ハ帝国議会ヲ招集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス


 

 天皇が法律の淵源である以上、第7条に定めるその協賛機関である帝国議会の招集などの行為が天皇の権限に属することは言うまでもないでしょう。ただし、これらも「天皇は統治すれども親裁せず」ですので、実際に決定するのは内閣です。




 

 (2)「法」と「法律」の違い


 

 さて、非常に大切なことですので、上の説明でも出てきましたが、少し「」と「法律」についておさらいしておきます。これは保守思想の基礎ですので、しっかり理解しておいて下さい。


 日常生活では、法も法律もほぼ同じ意味で用いられています。しかし、保守思想においてはこれらは完全に区別されます。


 「法律」とは国家の議会において可決を経た、その国家全体に通用する規範です。従って、その議会を構成する議員である特定の人々によって制定されたものです。法律は条文化された、書かれた規範です(成文法)。


 これに対して、「法」とは、その国家において祖先から伝統的に継承されてきた道徳や慣習、文化などの規範です。従って、特定の誰かによって作られたものではなく、無数の名もない人々の営みにより形成されてきたものです。法は道徳や慣習などであり、従って書かれた規範ではありません(不文法)。


 この法の中でも、特に国体に関わる重要な法のことを、憲法といいます。従って、憲法とは元々は国体に関わる重要な道徳や慣習などであり、不文法です。時代の節目においては、これらの規範の中で適当と思われるものをあえて成文化することもあります。このように成文化された憲法のことを、憲法典ということもあります。憲法十七条や五箇条の御誓文、大日本帝国憲法などは憲法典です。


 しかし、日本国憲法は憲法の定義に当てはまるものではありませんので、憲法としては無効です。憲法ではないものを条文化して縷々書き連ねてしまっているものであり、タイトルが憲法となっていても、中身は憲法ではありません。


 法律は議会において、その多数決をもって可決されるものです。しかし、多数決で決めてしまえばどんなことでも許されるかというと、それはとんでもない間違いです。多数決ならどんなことでも許されるのだ、というものが国民主権(民主主義)であり、これは法に支えられた国体を護持しようとする立憲主義(法の支配)と真っ向から対立するものです。


 立憲主義(法の支配)においては、法に違反する法律は、たとえ多数決をもって可決されても無効です。憲法違反で無効である、というわけです。


 このように、法は法律の上位に位置するものであり、両者は完全に区別されるべきものです。このブログでは、特に断りのない限りは「法」と「法律」を区別してお話していきますので、気をつけてください。


 


 次回は、第8条・第9条「天皇の勅令」です。( ω)



 このブログはこちらからの転載です → 『大日本帝国憲法入門』

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