2012年2月25日土曜日

皇室典範入門(1)

 こんばんは。今日から、皇室典範についての解説を始めます。

 なお、ここでは「法」「不文憲法」などという保守思想の基本的な用語については、解説しません。これらの用語の定義がよく分からないという方は、『保守思想入門』などをご覧下さい。

 ここで扱う皇室典範とは、『日本国憲法』という講和条約ないし特別な法律の下で制定された『皇室典範』という法律ではなく、大日本帝国憲法と並ぶ皇室典範という成文憲法ですので、ご注意下さい。

 ただし、事案によっては『日本国憲法』下で法律と位置づけられている『皇室典範』を扱うこともありますが、名称が同じでややこしいので、色を使って書き分けることもあります。通常は皇室典範は大日本帝国憲法と並ぶ成文憲法としての皇室典範、『皇室典範』というように『』がついていれば『日本国憲法』下の法律として位置づけられている『皇室典範』だということにします。




<皇室典範とは>


 今日は、皇室典範というものの意義や性質を簡単にお話します。


 皇室典範とは、皇室に関わる憲法規範を、特別にまとめた憲法典(成文憲法)である。


 皇室典範とは、皇位継承などの皇室に関わる不文憲法を成文化し、これらを中心にまとめた法典です。よって、皇室典範とは成文憲法であるのです。

 ただし、大日本帝国憲法と同様、中心になっているのは不文憲法ですが、全ての条文が不文憲法を成文化したというわけではありません。つまり、これらの条文については「改正」(=不文憲法の再確認、あるいは不文憲法ではない規範の追加、削除)ができるということになります。大日本帝国憲法と同様の「改正の限界」が存在するのです。

 皇室典範が成文憲法である、ということは、大日本帝国憲法と対等、同格であることを意味します。どちらが上、下、ということはありません。

 憲法典が複数あるということは、一見何だか奇妙に感じられる方もいるかもしれませんが、これはその下位規範である法律も多数存在しているのと同様だと考えれば、ごく当たり前のことだと分かるでしょう。もちろん、憲法典相互の間では規範が矛盾しないように条文を起草する必要があります。

 
 では、なぜ同じ憲法規範を、皇室典範と大日本帝国憲法に分けて成文化しているのでしょうか?

 これは、皇室典範の性質上、大日本帝国憲法と別の憲法典とすることが必要だったからです。

 皇室典範は、憲法規範の中でも特に、皇室に関わる特別な憲法規範です。すなわちこれらはいわば「皇室の家法」とも言うべき規定であって、その他の憲法規範とは別の憲法典として成文化し、これを取り扱うことがその趣旨にかなうものであるのです。

 よって、これらを大日本帝国憲法とは別の皇室典範として定め、運用することとなったのです。





<『日本国憲法』下の『皇室典範』という法律の性質>


 では、『日本国憲法』下の法律として制定された『皇室典範』の性質は、どう捉えるべきでしょうか。

 本来、皇室典範は憲法典です。法律ではありません。では、『皇室典範』は憲法典としての性質を備えているでしょうか?

 たとえば、『第五章 皇室会議』の規定などを見ると、それらが「皇室の家法」たるべき皇室典範の規定にそぐわないものであるといえます。よって、『皇室典範』は不文憲法や皇室典範に照らして無効となる規定を多く含んでいるものといえます。

 しかし、全く憲法典としての性質を持っていないかというと、そうは言えません。その第1条は、皇位の男系男子継承という不文憲法を成文化したものであり、これは正しく憲法規範です。

 このように、『皇室典範』とは実質上は憲法規範と、それに反して無効となる規範などが混在したものであるといえるのです。『皇室典範』とは中心となっている(第1条など)規定は憲法規範でありつつ、そうでないものをも多く含んでいる、中途半端なものといえます。「準・憲法典」とでもいえるでしょうか。

 従って、『日本国憲法』という講和条約下に制定された『皇室典範』という法律は、これが憲法規範を含んでいる以上、少なくともこれを一般の法律と同様とすることは誤り、不適切なのです。

 すなわち、憲法規範であるはずの皇室典範を、法律と位置づけることは重大にして明白な制定手続上の瑕疵であり、また実質的・内容的にもそもそも法律ではないものを法律であるとしていることになります。

 『日本国憲法』が実質上は講和条約ないし特別な法律であるゆえに憲法としては無効であるのと同様、『皇室典範』もまた、実質上は憲法規範であるものを含んでいるゆえに法律としては無効ということになるのです。よって、『皇室典範』という法律は法律としては無効であり、それが不文憲法や大日本帝国憲法や皇室典範に反しない限度で、憲法として有効ということになります。

 さて、このように考えると、お分かりでしょうか?『皇室典範』は「準・憲法典」である以上、講和条約たる『日本国憲法』の上位規範ということになるのです。

 今説明した我が国の現在の法体系を、皇室典範『皇室典範』を赤と青に分けて加えて表すとこのようになります。

       

     【我が国の法体系】


     不文憲法

       ↓

皇室典範・大日本帝国憲法(成文憲法)
  (不文憲法に反しない限度で有効)

       ↓

 『皇室典範』(準・成文憲法)
(不文憲法や皇室典範に反しない限度で憲法として有効)

       ↓

    日本国憲法(講和条約)
  (大日本帝国憲法に反しない限度で有効)

       ↓

      法律






<今日のポイント>



1.皇室典範とは、皇室に関わる憲法規範を、特別にまとめた憲法典(成文憲法)である。

2.皇室典範は、大日本帝国憲法と同格、対等な成文憲法である。

3.『皇室典範』は、『日本国憲法』の上位規範たる「準・成文憲法」である。



このブログはこちらからの転載です → 『大日本帝国憲法入門』

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