2012年2月25日土曜日

大日本帝国憲法入門(18)

 こんばんは。

 今日は、「第四章 国務大臣及枢密顧問」の解説です。



 
 第四章 国務大臣及枢密顧問



 第55条 1 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責二任ス

     2 凡テ法律勅令其ノ他国務二関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス


(口語訳)1 国務大臣は天皇を補弼し、その責任を負う。

     2 全て法律や勅令その他国務に関わる詔勅は、国務大臣の副署を必要とする。



 
 意外なのですが、大日本帝国憲法においてはいわゆる「内閣制度」は規定されていません。条文上存在するのは「国務大臣」のみです。従って、「内閣総理大臣」すらも規定がないのです。

 ただし、ご存知のように、実際の運用では内閣と内閣総理大臣は存在が当然視されています。伊藤博文『憲法義解』においても、本条の解説中に内閣や内閣総理大臣の言葉が用いられており、これらの存在を前提とされています。

 これらが憲法の規定に盛り込まれなった理由としては、内閣や内閣総理大臣の存在は当然のことであるので、簡略な法典を心がける趣旨からあえて当然のことを条文化しなかったということが考えられます。


 さて、この第55条第1項は、国務大臣の天皇に対する輔弼の任を定めたものであり、これは国体に関わる規範であると解釈するべきです。

 まず、「天皇は統治すれども親裁せず(第3条)」です。ここから、実際に政務を司る(うしはく)機関の存在が当然に導かれます。

 古代より、大臣や大連などによる政務が執り行われてきたのはご存知の通りと思います。摂関政治や幕府による政治の時代に至っても、政治の責任者が天皇により任命されるという構図には何の変化もありません。天皇は古来より現代に至るまで絶えることなく我が国を統治(しらす)され、その政務の責任は天皇により任命される「うしはく」者が負ってきたのです。

 天皇は我が国を統治されますが(第1条)、その統治権は国務大臣の輔弼によって行使されねばならない、というわけです。すなわち、この規定は第3条の趣旨を行政権の行使について具体的に規定したものというわけです。

 よって、この条文は国体に関わる規範であり、改正できないものと解釈すべきです。

 第2項はこの責任を明確化するための署名であり、形式上のものであると解すべきです。署名がないことを理由に責任を免れるというのは、輔弼の趣旨に反するからです。




 第56条 枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢二応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス

(口語訳)枢密顧問は枢密院官制の定めるところにより、天皇の諮詢に応えて重要な国務を審議する。



 枢密顧問は重要な国務を審議し、それが誤った方向に導かれることのないように担保しようとするものです。伊藤博文『憲法義解』は枢密顧問について、「内閣と倶(とも)に憲法上至高の輔翼」であるとしています。



 次回は「第五章 司法」に入ります。



 このブログはこちらからの転載です → 『大日本帝国憲法入門』

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