2012年2月25日土曜日

大日本帝国憲法入門(22)

 こんばんは。

 おかげさまで、この「大日本帝国憲法入門」シリーズも今回と次回をもって、終了の運びとなりました。

 先日ご連絡しました通り、今後は「帝国皇室典範入門」「保守思想入門」を併行しながら、このブログ『大日本帝国憲法入門』を継続して参ります。どうぞこれからも変わらぬご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

 さて、「第七章 補則」には第75条、第76条が含まれています。これらの条文は、いわゆる『日本国憲法』の「新無効論」の根拠条文として引用されるものです。

 そこで、今回はごく簡単ではありますが、これらの条文の解説と絡め、この新無効論について、できるだけ分かりやすく皆様にお話し、併せて「第七章 補則」の解説を致します。

 この新無効論とは、弁護士で国體護持塾塾長でいらっしゃる南出喜久治先生により提唱されたものです。

 私はツイッターで初めてこの説の存在を知り、それまで自分が学び続けてきた保守思想を、『日本国憲法』の存在と調和させ、大日本帝国憲法を復元しその現存を確認する優れた説であると感じました。

 まさに、新無効論こそは我が国の憲法問題を解決する無比の卓説であるのです。

 今回の私の解説は、それ以来自分なりに学び、理解し得たところのものをお話するものです。よって、私の理解不足に由来する誤解が混在している恐れもございますが、これまでの新無効論の支持者の皆様の当ブログへのご支援に対する深い感謝の念を込めて、このブログを綴り、皆様へのささやかな謝意とさせて頂くことをお許し下さい。そして、これからも当ブログへの変わらないご支持を何卒よろしくお願い申し上げます。

 また、今回の新無効論の解説について、誤解などがあると思われる場合は、どうぞご遠慮なくツイッターや当ブログのメッセージ欄からご指摘、ご指導頂ければ幸いです



<「無効」になるとどうなるか>


 まず、法律学上の「無効」の意味を簡単にご説明致します。

 無効とは、ある法令などが議会などの議決を経て形式的に成立したものの、様々な事由によりその存在がなかったものとみなされることです。

 つまり、無効とは、その法令が形の上では存在しているものの、その効力が発生せずに存在していないということなのです。裁判所はその法令に基づいて裁判することはできず、行政機関もその法令に基づいて行政行為を行うことはできません。

 また、よく誤解されているのですが、無効とは裁判所などが判決などで宣言して、そこで初めて無効となる、というのではないのです。無効な法令は形式的に成立したときから無効であって、初めから存在していないとみなされるのです。

 『日本国憲法』が無効である、という主張は、『日本国憲法』がそれが形式的には大日本帝国憲法第73条による大日本帝国憲法の改正であり、帝国議会の可決成立という要件を満たしてはいるものの、それが実質的にはそのタイトルに関わらず、内容面で憲法といえるものではない、憲法ではないことを理由に無効である、という主張なのです。

 『日本国憲法』はその根本理念たる国民主権(民主主義)、基本的人権、平等主義などが立憲主義(法の支配)に反するゆえに、憲法ではありません。

 この点は、これまで当シリーズで何度かお話した通りです。

 では、「日本国憲法は無効である」という場合、どのような事態が生じるでしょうか?実は、ここに大きな問題が生じてしまうのです。

 というのは、法律学の世界には法体系というものが存在します。政令はその上位の規範である法律によって有効となり、法律はその上位の規範である憲法によって有効となる、というものです。つまり、上位の規範が無効になると、それによって根拠づけられている下位の規範も一緒に無効になってしまうのです。

 『日本国憲法』が無効となると、その効力は公布当初に遡ります。ということは、『日本国憲法』に基づいて制定された法令、行政行為、裁判所の判決なども、ことごとくその効力を失ってしまう、ということになるのです。

 そうなってしまうと、これは大変ですね。今までの日本国憲法施行後に制定された法律は無効だ、となれば、社会は大混乱になってしまいます。さすがにそれはできません。

 また、『日本国憲法』は昭和天皇の上諭によって公布されています。この点から、『日本国憲法』の法規範性を否定することは承詔必謹に反することになるのではないか、という問題もあります。

 何とか、今までに制定された法律の有効性を維持しつつ、同時に憲法ではない日本国憲法を無効とすることはできないものでしょうか。

 ところで、我が国の法体系を不等号で表すと、 

 不文憲法 > 大日本帝国憲法 > 法律 > ・・・

となります。最も上位にあるのが不文憲法であり、大日本帝国憲法はこれを成文化したものでその下位に位置し、法律は大日本帝国憲法に根拠を有するものであってさらにその下位にある、いうことなのです。

 そして、ここに何とかして、『日本国憲法』を組み入れることができないか、というのが新無効論なのです。



<新無効論とは>


 というのは、我が国の法体系に『日本国憲法』を組み入れることができれば、それに根拠を有する法律も有効となり、上記の混乱もさほどなくなるのです。

 そして、『日本国憲法』の問題点は、国民主権や基本的人権などの立憲主義(法の支配)を否定する理念にあります。ということは、『日本国憲法』からこれらの立憲主義に反する理念を、無効化し、無視してしまえばいいのです。

 そこで、この条文を見て下さい。

第76条 1 法律規則命令又ハ何等ノ名称ヲ用イタル二拘ラス此ノ憲法二矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス

(口語訳)1 法律、規則、命令、または何らの名称を用いたに拘らず、この憲法に矛盾しない現行の法令は全て従来通りの効力を有する。

 すなわち、大日本帝国憲法は、その法規範の名称に関わりなく、大日本帝国憲法に矛盾しない範囲内であれば、その有効性を認める、と定めているのです。

 すなわち、このように考えます。

不文憲法 > 大日本帝国憲法 > 『日本国憲法』 > 法律 > ・・・

 この不等式は、南出喜久治先生の『占領憲法の正體』p.96のものを簡略化したものです。

 新無効論とは、法律行為の「無効行為の転換」理論を応用し、『日本国憲法』を憲法規範ではなく、講和条約であると把握した上で、大日本帝国憲法の下位規範と位置づけ、大日本帝国憲法に違反しない限度での有効性を認め、法的安定性をも確保するものなのです。

 つまり、『日本国憲法』はその名称に関わらず憲法規範ではなくなり、法律の上位に位置する講和条約としてその有効性を認められます。『日本国憲法』は憲法ではなく、『日本国憲法』という題の講和条約である、というわけです。これこそが、『日本国憲法』は憲法として無効である、の意味です。裏返せば、講和条約として有効である、というわけです。決して『日本国憲法』の法規範性を否定するわけではないのです。

 こうして、大日本帝国憲法が正統な憲法であり、現在も憲法として存在していることが確認されるとともに、『日本国憲法』は憲法としては無効となり、しかもそれにより『日本国憲法』制定以降の法律などが無効となってしまうこともないのです。

 また、講和条約として法律の上位規範たる『日本国憲法』が有効となるのであれば、昭和天皇の上諭をもって公布されたことによる法規範性も認められ、承詔必謹に反することもありません。

 『日本国憲法』において、国民主権(民主主義)、基本的人権、平等主義など大日本帝国憲法に反する部分は無効となり、存在しないものとして扱われますが、それと関わりのない条文はそのまま残り、法律の上位に位置することになるのです。


  【新無効論による法体系】


     不文憲法

       ↓

   大日本帝国憲法(成文憲法)

       ↓

    日本国憲法(講和条約)
  (大日本帝国憲法に反しない限度で有効)

       ↓

      法律


 以上が新無効論の骨子です。より詳細な解説は南出喜久治先生の「占領憲法の正體」をぜひ参照下さい。






 第七章 補則
 

第73条 1 将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議に付スヘシ

     2 此ノ場合ニ於テ両議院ハ各々其ノ総員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス

(口語訳)1 将来この憲法の条項を改正する必要があるときには、勅命をもって議案を帝国議会の議に付さねばならない。

     2 この場合において、両議院はそれぞれその総員の三分の二以上の出席がなければ議事を開くことができない。そして、出席議員が三分の二以上の多数でこれを可決するのでなければ、改正の議決をすることができない。


 大日本帝国憲法は我が国の不文憲法を成文化した正統の憲法典です。よって、上位の法規範たる不文憲法に反する改正はできません。もしもそのような改正がされても、それは不文憲法に反し無効となります。

 ただし、大日本帝国憲法の全ての条文が改正できない、というわけではありません。というのは、大日本帝国憲法には不文憲法とは関わりのない条文も併せて多く規定されているからです。このような条文については、改正しても不文憲法に反することにはなりませんので、改正できることになります。

 このように、成文憲法が上位規範たる不文憲法により、改正に一定の枠をはめられていることを、「改正の限界」といいます。『日本国憲法』は改正の限界を越えているゆえに憲法として無効であるのです。

 第73条は、このような考えに基づき、不文憲法に反しない限度で大日本帝国憲法の改正を認めたものです。



第74条 1 皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス

     2 皇室典範ヲ以テ此ノ憲法ノ条規ヲ変更スルコトヲ得ス


(口語訳)1 皇室典範の改正は帝国議会の議を経る必要はない。

     2 皇室典範でこの憲法の条規を変更することはできない。

 
 皇室典範は皇室の家法であり、皇位継承などについての不文憲法を成文化したものであって、すなわちこれは大日本帝国憲法と並ぶ我が国の正統な成文憲法なのです。

 従って、皇室典範の改正もまた上位規範たる不文憲法による改正の限界が存在し、これを越える改正は無効となります。また、皇室の家法たるゆえんにより、改正には帝国議会による審議を必要としません。また、両法典は成文憲法として対等な位置にあるので、皇室典範によって大日本帝国憲法の条文を変更することなどはできないのです。



第75条 憲法及皇室典範ハ摂政ヲ置クノ間之ヲ変更スルコトヲ得ス

(口語訳)憲法および皇室典範は摂政を置いている間、これを変更することはできない。

 成文憲法たる大日本帝国憲法及び皇室典範は、摂政が置かれているような国家の変局時においては、これを改正するに適切ではないため、その期間の改正を禁じた規定です。

 新無効論においては、これは広く国家の変局時において大日本帝国憲法の改正を禁じる趣旨と解し、GHQによる占領下もこのような非常時にあたるものとして、この時期になされた大日本帝国憲法の改正による『日本国憲法』を無効とする理由の一つに挙げています(『占領憲法の正體』p.58 ~ p.63)。



第76条 1 法律規則命令又ハ何等ノ名称ヲ用イタル二拘ラス此ノ憲法二矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス

     2 歳出上政府ノ義務二係ル現在ノ契約又ハ命令ハ総テ第六十七条ノ例二依ル

(口語訳)1 法律、規則、命令、または何らの名称を用いたに拘らず、この憲法に矛盾しない現行の法令は全て従来通りの効力を有する。

     2 歳出上政府の義務である現在の契約または命令は全て第六十七条の例による。


 元々、この規定は大日本帝国憲法公布前の法令などが、公布後もその効力を認められるという旨を定めたものです。新無効論は、この規定の趣旨を『日本国憲法』に及ぼし、その名称に関わらず講和条約としての有効性を認めようとすることは先に説明いたしました。

 


 以上をもちまして、大日本帝国憲法全条文の解説を終了致します。次回はいよいよ最終回となります。「全体のまとめ、及び大日本帝国憲法復元後の改正点の提案」をお送りいたします。


(参考文献)『占領憲法の正體』 南出喜久治著



 このブログはこちらからの転載です → 『大日本帝国憲法入門』

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